太宰治

 節子は、誰よりも先きに、まず釈放せられた。検事は、おわかれに際して、しんみりした口調で言った。 「それではお大事に。悪い兄さんでも、あんな死にかたをしたとなると、やっぱり肉親の情だ、君も悲しいだろうが、元気を出して。」  少女は眼を挙げて答えた。その言葉は、エホバをさえ沈思させたにちがいない。もちろん世界の文学にも、未だかつて出現したことがなかった程の新しい言葉であった。 「いいえ、」少女は眼を挙げて答えた。「兄さんが死んだので、私たちは幸福になりました。」